江戸時代の寛延3年(1750)夏、毎夜丑の刻になると薬師堂にお参りして何ごとか一心に祈願をこめる一人の女性があった。立派な男の子が授かりますようにと、お薬師様に百日々参の願をかけていたのである。
満願の夜に仁王門をくぐろうとすると、足元に大きな牛が長々と横たわっている。しかし、ここで戻っては満願もかなうまいと思い、牛の背を乗り越えて薬師堂へお参りし、満願を果した。実はこの牛、仁王門の前にあった大石だったのである。
お薬師様が姿を変えて現れたのだろうか。やがて8月8日の朝、元気な男の子が誕生した。これが後に「わしが国さで見せたいものは昔谷風(たにかぜ)、今伊達模様」とうたわれた寛政の名力士、谷風の誕生譚である。 |